第一片 【苹果の少女】

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ふんわりと宙に浮くのは血のように真っ赤なドレスを纏った少女で、小さい頃に遊んだ着せ替え人形みたいだ…と思った。いや、それよりも祖父母の家で見た西洋の人形にも似ている。そう思うくらい小さい体と唇からから、静かに、どこか強い意思を持った言葉が耳に注がれた。ドレスよりも深い色の紅い瞳が宝石のように輝きを放つ。 「貴女、このまま死にたい?それとも、生きて生まれ変わりたい?選んで頂戴、りんご。」 どうしてわたしの名前を?などと今更考える余地もない、命をなくしたばかりのりんごは目の前の出来事を空っぽな頭で受け入れた。 「……死にたくないよ…そんなの、死にたくないに決まってるじゃん…私が死んだら、…お母さん……」 「生まれ変われるわ、貴女なら。」 「生まれ…変わる…?…わたし、もっと…もっと生きたい……生きたいよ」 「そう…夜野りんご。それが貴女の選ぶ未来ね。」 ボッと火が灯ったように周囲が明るくなった。 「私は聖ドールのひとつ、名をメーラ。この苹果を噛りなさい。私の授かった命の苹果の欠片を分けてあげるわ。」 何もなかったはずのメーラの手の中から、苹果がひとつ現れた。甘く瑞々しい薫りがりんごの心を誘う。 「天にたゆたう運命を泳ぐ者よ、命の苹果を分かつ者よ、その唇で誓いたまへ。さあ、お召し上がりなさい―」 「これ…は…」     
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