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りんごは差し出された果実に両手を添え、恐る恐る顔を寄せて齧りついた。口に含んだはずの果肉はまるで砂糖菓子のようにしたの上でとけて消え、次の瞬間にはさっきまで何の音も立てなかった心臓がドクドクと存在を訴えかけてきた。りんごは少しだけ、メーラの顔が優しく微笑んだような気がした。
「これで貴女は生まれ変わる、貴女は私になる、私は貴女になる。身体を亡くした魂に、私の身体を貸してあげるわ。夜野りんご、貴女は私に魂を貸して頂戴。」
「私の魂を…あなたに…?」
「そうよ。でもそれで貴女が手にする私の体は仮初めの器…私と一緒に《白銀のオリザ》を探し出して頂戴。貴女が口にした苹果は、世界の意思がいたずらに作ったレプリカ…いつかは価値を失うの。」
「…それは…また死んでしまうってこと…?」
「ええ。真実の死に抱かれる日がくるわ。」
そんな悲しい顔をしないで、と小さなメーラの手が赤い石の入った指輪を差し出した
「これを。私の瞳の石とお揃いよ。…いいえ、私そのものだわ。大切にしてりんご。また、あちら側で会いましょう…」
メーラが苹果の左手の小指を指輪で飾ると、大きな柘榴石が目映く柔らかい光を放ち、二人を包んだ。温かい。りんごの全身に血液が巡るようだった、心臓が鼓動して肺に酸素が流れ込む。そして遠く遠く聞こえてきた、メーラとは違うよく知った声が少しずつ近付いてきたような気がする。
『……ごちゃん…』
「りんごちゃん…!」
「よかった…!りんごちゃん!」
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