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少しして病院の手続きをしていたらしいゆきなの母親がパタパタとりんごの病室にやってきた。大きくカーテンが開いて、りんごにこの病室が個室であることがわかったのはその時だった。ゆきなは母親と何度も何度も繰り返しありがとうと感謝を口にし、亜樹は早くよくなって!と、りんごに手を振って、迎えに来たゆきなの父親の車で共に帰宅した。
静かになった病室ではスマホを弄ることもできず手持ちぶさたになったが、卓上の小さなテレビの電源をつける気分にもならなかった。そうしているうちにもう夜も深い事に気付く。面会終了ギリギリの時間になった頃に仕事着のままのりんごの母親が駆けつけた。
「りんご!よかった…りんご、意識がないって聞いたとき、お母さん…本当にびっくりして…」
「大丈夫だよ、お母さん。心配かけてごめんなさい。それより服、…ここの病院の人と間違えられなかった?」
慌てて出てきたためか、仕事着だけではなく母親の胸もとには《中央病院第一内科 夜野あけ美》と刻印されたネームバッチまで付けっぱなしだった。
「あらやだ!どうりですれ違う先生達が不思議そうな顔をするわけだわ。…ごめんなさい、本当はもっと早く出られるはずだったんだけど…」
「いいよ、それ見たらすっごい心配して来てくれたんだなってわかるから。」
病衣に包まれた娘の肩を撫でる申し訳なさそうな母親の手に、そっと手を重ねてりんごは元気そうに笑う。
「今日まだお仕事あるんでしょ?私大丈夫だから、お母さんは戻って!」
「でも、…りんご…」
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