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「いいから!退院したら駅前のパティスリーのケーキ、ホールで一個よろしくね!」
「そうね、わかったわ。…また明日様子見にくるから…おやすみ、りんご。ありがと。」
お互いに笑顔を交わして、それから少しだけぎゅうっと抱き合った。また仕事へと戻っていく母親の背中はすぐに見えなくなる。少し寂しく心許ない気持ちに襲われ、天井を見つめているうちに、ずっと帰らないままの父親がいつかくれた外国の猫のぬいぐるみで一人遊びをする小さい頃の自分の姿が思い出された。そんな気持ちを抱いたままいつの間にか眠りに落ち、再びりんごが目を覚ましたのは真夜中のことだった。
「りんご」
「ぅー…ん…?」
少し離れた距離から、女の子の声がした。薄く瞼をあけ、ベッドの上でもぞもぞと寝返りをうって、りんごは名前を呼ぶ声の方を見た。
「…メー…ラ…?」
メーラが星空を背にして窓辺にちょこんと座っているのが見え、おずおずと身体を起こしその姿を確認した。
「おかえりなさい、りんご。やっぱりこちら側の世界は気分がいいわね。ここは少し窮屈だけれど」
すうっとその場に立ちあがったかと思うと、纏った赤いドレスのすそを両手ですくい、軽く膝をおって仰々しく頭を下げる。
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