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第一片 【苹果の少女】
「ひゃっ…―!!!!」
ドンッ…という鈍い音の後に、制服姿の少女が絞り出すような悲鳴をあげた。それとほぼ同時に周囲がどよめき、側にいた一人の中年サラリーマンの顔がみるみる青ざめていった。
『…―黄色い線の内側にさがってお待ちください』
アナウンスはもはや、それを見ていた誰の脳にも伝わらなかった。
「ゆきなちゃん…!!!?」
「ゆき…―!」
同じ制服を着て一緒に整列していた女子生徒二人ももう声が出せない様子だったが、最初にゆきなと名前を呼んだ少女は咄嗟に空を掻くゆきなの腕を掴み自分の方へと引き寄せた。"こちら"へ引き戻された体はドサリ、と群衆の足元へ、アスファルトに倒れこむ。
しかしその反動で少女の体はゆきなと入れ替わるように、ぐらりと"あちら"に落ちていった。
帰宅ラッシュで込み合う駅のホームから、命がひとつこぼれ落ちた。
『わたし…』
宙に浮いた体は糸の切れた操り人形のように力を失って、勢いよく滑り込んでくる車両に吸い寄せられていくようだった。
『このまま死んじゃうんだ…』
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