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冬の陽だまり
冬って暖かいんだな
澄みきった青い空、雲のカタマリが勢いよく流れていく。電線が揺れて、びゅうびゅうと風を切って鳴っているのが窓の中からも聞こえる。
壱ノ宮市の南の方にあるハギワラ町には、単線の私鉄駅がある。
駅から住宅街に向かう道筋から外れたところにある
[あんてぃく]
という喫茶店は、見た目は英国カントリー風の小さな店で内装はビクトリア風となっており、カウンター席が5席、テーブル席2つの落ち着いた雰囲気の店だ。
そのテーブル席に座って、外を見ていた愛菜は、ぼんやりとそう思った。
店内は暖房が効いているが、それよりも窓際にいる愛菜は顔に受けている陽射しが暖かく、ついそう思ってしまう。
窓の外を見飽きた愛菜は、店内に視線を移す。店内にはマスターと、お客さんが一人だけいる。
一人だけのお客さんは、一番奥のテーブル席の奥の窓側に座っていた。
お婆ちゃん、いや、お婆さん? じゃないな、もっと似つかわしい言い方があると愛菜は思った。
小柄で毛糸の帽子をかぶり、そこからのぞく綺麗な銀髪のような白髪、金縁の丸眼鏡、皺は刻まれているがそこはかとなく品のある顔立ち、服も可愛らしく今風にいうなら森ガールみたいだが、それよりもっと品のある感じで、しかもその人のテーブルの上の紅茶とケーキをいただく姿は、とても優雅だった。
愛菜は自分の知っている言葉で、一番ぴったりの表現を考えた。
老婦人? いや、老貴婦人だ!
じっと見ていたので、ふと顔をあげた老貴婦人と目があってしまった。
老貴婦人はにっこりと微笑んで会釈をしてくれたので、愛菜は思わず頭を下げる。
「こんにちは、お嬢さん」
「こ、こんにちは」
上ずった声で返事をして、少し恥ずかしくなった。
そんな愛菜に、変わらず微笑みながら話しかける。
「ここのところ、よく見かけるわね。ここの御紅茶、気に入っているのかしら」
「いえ、全然」
と、応えて、あっと思い、あわてて口を押さえた。その姿を見て、老貴婦人はころころと笑う。
愛菜はそおっとカウンターの方を見ると、白髭をたくわえた老マスターが苦笑いしている。
「ごめんなさい……」
消えいるような声で謝った。
「いいのよ。というか、しょうがないわよね、恋人さんかな? その方との待ち合わせに、ここに来ているんでしょ」
愛菜は思わず、驚いた顔をする。
「どうしてわかるんですか」
「そおねぇ」
老貴婦人は両手で紅茶の入ったカップを持ち、中を覗き込みながら話しはじめた。
「貴女に気づいたのが2週間くらい前かしら、いつも入口に近いテーブル席に座り、メニューもさっと見る感じだったから、待ち合わせかなと思ったの」
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