冬の陽だまり

1/6
前へ
/14ページ
次へ

冬の陽だまり

 冬って暖かいんだな  澄みきった青い空、雲のカタマリが勢いよく流れていく。電線が揺れて、びゅうびゅうと風を切って鳴っているのが窓の中からも聞こえる。  壱ノ宮市の南の方にあるハギワラ町には、単線の私鉄駅がある。  駅から住宅街に向かう道筋から外れたところにある [あんてぃく] という喫茶店は、見た目は英国カントリー風の小さな店で内装はビクトリア風となっており、カウンター席が5席、テーブル席2つの落ち着いた雰囲気の店だ。  そのテーブル席に座って、外を見ていた愛菜(らな)は、ぼんやりとそう思った。  店内は暖房が効いているが、それよりも窓際にいる愛菜は顔に受けている陽射しが暖かく、ついそう思ってしまう。  窓の外を見飽きた愛菜は、店内に視線を移す。店内にはマスターと、お客さんが一人だけいる。  一人だけのお客さんは、一番奥のテーブル席の奥の窓側に座っていた。 お婆ちゃん、いや、お婆さん? じゃないな、もっと似つかわしい言い方があると愛菜は思った。  小柄で毛糸の帽子をかぶり、そこからのぞく綺麗な銀髪のような白髪、金縁の丸眼鏡、皺は刻まれているがそこはかとなく品のある顔立ち、服も可愛らしく今風にいうなら森ガールみたいだが、それよりもっと品のある感じで、しかもその人のテーブルの上の紅茶とケーキをいただく姿は、とても優雅だった。  愛菜は自分の知っている言葉で、一番ぴったりの表現を考えた。 老婦人? いや、老貴婦人だ!  じっと見ていたので、ふと顔をあげた老貴婦人と目があってしまった。  老貴婦人はにっこりと微笑んで会釈をしてくれたので、愛菜は思わず頭を下げる。 「こんにちは、お嬢さん」 「こ、こんにちは」 上ずった声で返事をして、少し恥ずかしくなった。 そんな愛菜に、変わらず微笑みながら話しかける。 「ここのところ、よく見かけるわね。ここの御紅茶、気に入っているのかしら」 「いえ、全然」 と、応えて、あっと思い、あわてて口を押さえた。その姿を見て、老貴婦人はころころと笑う。 愛菜はそおっとカウンターの方を見ると、白髭をたくわえた老マスターが苦笑いしている。 「ごめんなさい……」 消えいるような声で謝った。 「いいのよ。というか、しょうがないわよね、恋人さんかな? その方との待ち合わせに、ここに来ているんでしょ」 愛菜は思わず、驚いた顔をする。 「どうしてわかるんですか」 「そおねぇ」  老貴婦人は両手で紅茶の入ったカップを持ち、中を覗き込みながら話しはじめた。 「貴女に気づいたのが2週間くらい前かしら、いつも入口に近いテーブル席に座り、メニューもさっと見る感じだったから、待ち合わせかなと思ったの」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加