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「そうですね、どうしてウチを待ち合わせ場所にしているのかは、気になります」
あんてぃくはハギワラ駅から住宅街の連絡コースから外れている、しかも雑木林に隠れるように建っていて駐車場もない。隠れ家的な喫茶店なのだ。
待ち合わせするなら、もっと目立つ所にするだろうにと考えるのは自然だった。
「そうね。それにあわてて出ていったのも、別々に出ていったのも、ちょっと気になるわね」
お代わりの紅茶の入ったティーカップを持つと、口をつけながら少し考え込んだ。
一週間後、あんてぃくに愛菜がやって来た。
「ハルさん、こんにちは」
明るく愛想のよい笑顔にハルは心地好く挨拶を返す。
いつもの席に座るのを少し躊躇する様子を見て、ハルは手まねきをする、それを見てさらに笑顔になって愛菜はハルの前に座り紅茶をオーダーした。
「ケータイをテーブルの上に置いておきなさいな、それまで話し相手についてなってね」
「そんな、こちらこそ相手してくれてありがとうございます。ハルさんはここによく来るんですか」
「そうね、ほぼ毎日来てるかしら」
「え、じゃあお近くに住んでいるんですか」
傍らに杖があるのと小柄で大人しそうなところから、愛菜はそう思った。それにたいしてハルはそうねとだけこたえる。
「愛菜さんはどこにお住まいなのかしら」
その言葉に愛菜はすこし躊躇したが、この近くだとこたえる。ふたりの会話は一瞬途切れそうになったが、愛菜が違う話題をふることで続いた。
ブブブとケータイが震える。どうやら雅之が来たらしい。愛菜はぺこりと挨拶をすると、支払いを済ませてそそくさと出ていった。
愛菜が来る、ハルと話す、ケータイが鳴る、出ていく。こんな事が週末に繰り返されていた。
そんなある日の事だった。いつも通り愛菜か来る曜日と時間だったのに、姿を見せない。ハルは編み物をしながら、どうしたのかしらと気にしていた。
「今日は来ないんですかね」
マスターが手作りのレアチーズケーキを持ってくると、ハルにそう話しかける。その語り口で何かあったのを察したハルはマスターに問いかける。
「なにか知ってるの」
「いえ、先日仕入れに出かけたときに噂話を聞いたのですが、確証がないので……」
その時、あんてぃくの入り口を勢いよく開けて愛菜が入ってきた。
「ハルさん……」
ハルの顔を見た途端、涙をぽろぽろ流しそしてかけ寄る。
ハルは慌てて編み物を仕舞うと、隣の席に座るようにうながし、ハルさんハルさんと泣き続ける愛菜の頭を優しく撫でてあやすのだった。
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