冬の陽だまり

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 少しづつ話せるようになった愛菜の話しと、マスターの聞いた噂話を合わせると、どういう事になっていたかハルにも分かってきた。  雅之のフルネームは門馬雅之といい、門馬家のひとり息子で、この辺りのいわゆる名家というものだった。  古くは江戸時代の庄屋でこの辺りの小作人をやっとっており、時代の節目ごとに小作人を守っていき、現在は大規模農業経営をして小作人の家系が社員として働いている。それゆえ地元への信頼と影響力は大きい家柄だった。  一方、愛菜のフルネームは木屋日愛菜といい、木屋日ファクトリーという創業二十年の会社のひとり娘だ。  愛菜の両親が結婚と同時にハギワラ町に引越して来て、革新的な栽培方法を売りとした農業ベンチャー企業を設立。地元との関係も良好だった。  しかしこの数年、事態に変化があった。  門馬家の会社に新人が入ってこず社員が高齢化して、規模をだんだん維持出来なくなってきたのだった。  一方、木屋日ファクトリーは栽培方法があたり、少人数でも大量生産できるようになり、規模と売り上げが伸びはじめる。門馬家は次第に木屋日ファクトリーが目障りになってきた。  そんなある日、事件が起きた。  門馬家で働いていた若手が、仕事のやり方でベテランと衝突して辞めてしまい、木屋日ファクトリーに働きたいとやってきたのだ。 「どうしてそんなことに」 ハルの疑問にマスターがこたえる。 「古き良き伝統農法は、手間ひまがかかり儲けも少ないので若い人に不人気です。なので効率よくやりたい利益を上げて手間を減らすべきだと訴えたのですが、ベテラン勢は今までのやり方を否定するという事は、自分達の苦労を否定することになるので、受け入れなかったのでしょう。それで愛菜さんの親御さんのところに来たのではありませんか」 それを聞いて愛菜はこくんと頷く。  木屋日は事情を知っているので断ったのだが、彼らの農業への熱意にほだされ、門馬家に挨拶してから受け入れようと思い、訪ねていき事情を話した。  門馬は激怒して木屋日の話を聞き入れず追い返した。それだけでは飽き足らず商工会に働きかけ、木屋日ファクトリーを除外するようにいったのだ。  さすがに怒った木屋日は若手を雇い、遠慮して門馬のシェアを避けていたのをやめて攻勢にでた。 以来、両家は犬猿の仲となっている。 「愛菜ちゃんは、雅之さんとどうやって知り合ったの」  泣くだけ泣いて落ち着いた愛菜は、ふたりの出会いを話し始める。
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