冬の陽だまり

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 愛菜はハギワラ町生まれで、幼少期はクラスメートや近所の子たちと遊び回っていた。  地元の中学校を卒業後、少し遠めの都市にある高校に進学することになったので、思いきって寮暮らしをすることにし、卒業後は大学に進学して実家に戻ってきた。  その年の成人式の帰りだった。はじめての飲酒と慣れない晴れ着のせいで気分の悪くなった愛菜は、友達と別れて電車で先に帰ることにした。  そこでおなじく成人式で羽目を外した酔っぱらいに絡まれているところを、雅之に助けられたのが出会いだったと。 「そのあと送ってくれて、あたしが木屋日愛菜と知って、小さい頃一緒に遊んだ雅兄ちゃんだと分かって、それがきっかけでつき合うようになったの」 「その頃は両家の仲はもう悪くなってたの」 「うん、でもそんなに深刻じゃなくて、でもなんとなくまずいかなと思って隠れてつき合ってたの」  それがバレたのはたまたまで、遠く離れた観光地でデートしていたら双方の社員も家族旅行に来ていて、両方に目撃されて双方の社長に知られたからであった。  ともに問い詰められ、つき合っているのを認めると、会うのを禁止されさらには雅之は自宅に閉じ込められてしまったのだ。 「あたしは大学があるから、通わなくちゃいけないんで大丈夫だったんだけど、雅之さんは自宅が勤め場所だから外出禁止になって、ケータイも取り上げられて話せなくなったの」  愛菜の最後の会話は向こうの父親とで、ケータイを取り上げ預かる二度と話すな、と言われたとのことだった。  悲しみに耐えられなくなった愛菜は、それでハルのところに来たという。 「ハルさん、あたしどうしたらいいの、あたし達ってもう別れるしかないの、どうしよう、会いたい、雅之さんに会いたいよぉ」  また泣き出した愛菜を今度は抱きしめて慰めるハルは、マスターの目をみつめた。  マスターはしばらく考えたあと、ため息をついて首を振るが、ハルは目をそらさない。 「まずは事情を調べましょう、何かするならそのあとですよ」  わかりましたよという感じで、マスターはそうこたえた。 「よかったわね愛菜ちゃん、マスターがなんとかしてくれるって。だからちょっと待っててね」  期待に満ちた四つの目にやれやれと思うマスターであった。  その後、マスターは門馬家と木屋日ファクトリーの内情を調べ、雅之はほとんど自室か屋敷の敷地内の事務所にしかいないことを知ると、新しいケータイを購入した。  愛菜のケータイの番号だけを登録して、それを雅之が担当している取引先の名前で送り、着信を待つと無事繋がりふたりは連絡を取れるようになったのだ。  
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