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それから数ヶ月後、ハルは相変わらずあんてぃくで編み物をしながら紅茶を飲んでいたが、ときどき手を止めてため息をつくようになっていた。
「よけいなコトをしちゃったのかしら」
窓の外を見ながら、来なくなった人のことに思いをはせる。
愛菜と雅之はバレないように夜な夜な連絡をとり、翌日それを愛菜がハルに話しに来るという日々が続いたが、ある日から来なくなった。
どうしたのかしらと思いながらも、あんてぃくに来ると、マスターが困った顔で手紙を差し出した。
「どうしたの」
「申し訳ありません、どうやら予想外のことになったようです」
「何があったの」
「愛菜さんと雅之さんが駆け落ちしました」
「えええー」
ハルは手紙を開くと、そこには愛菜からの感謝と謝罪の言葉が書き記されていた。
毎晩の会話と会えなくて募る思いが、互いに必要な相手だという確かな想いとなって、二人で誰も知られない場所にいき暮らすという内容だった。
読み終わったあとハルはしばらく呆然としていた。
「今朝、郵便受けにケータイとともにその手紙が入ってました。私宛にもあって感謝の言葉と後始末をしてきたので、こちらに迷惑をかけないという内容が書かれていました」
「なんということを……」
「迂闊でした、まさか今の時代に駆け落ちをするとは思いもよりませんでした」
両家は大騒ぎとなり警察にも届けたが、成人男女が自分の意思で出ていったのだからと、事件にはされなかった。
互いに相手のせいだと罵り合い、完全に対立するかと思ったが、意外にも静かになった。
「出ていくとき二人とも書き置きをしていて、両家の諍いが原因で出ていく仲良くなったら戻ると書いてあったそうです」
後日、噂話を拾い集めたマスターがハルにそう伝えた。
「駆け落ちか……」
ぽつりとハルが呟いたが、マスターは無言のままだった。
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