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台風だろうか。そうならば今朝のテレビで聞いていてもおかしくないが、全くそんな記憶はない。予定に無い不躾な何かが、私のお気に入りを台なしにする。そんなことには、もう慣れている。 カップに残った紅茶を一気に飲み干し席を離れ、不快を絵に描いたような仕草で“その男”の居た席の辺りへ頸を廻した私は、こちらを見上げて気味の悪い笑顔を浮かべる男と目が合った。 振り返る刹那に、私のすぐ傍まで移動した“その男”は、二本しか残っていない前歯を見せて、その隙間にある暗がりに滞った気体を揺らした。 耳へ届いたその振動は、蒸気となって室内へ浸入した雨滴と混合され、変質して皺がれた聲へと転換される。
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