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洗面所の手擦りに縋り付いたまま、恐怖と苦痛で自失している間にも“舌”は見る見る成長を続け、遂に細く筋張った二本の腕を突出させるに至っていた。錆色の液体が腕と顔との間にぬるぬると流れ、血と泥の混じった臭気を放散させる。ぐちゃぐちゃという、肉の動く湿った音が身体の内側から聞こえる。ぐにぐにぐに……
ぐちゃり ぐちゃ ぬちゃ ずぶずぶずぶ……
“べたり”と嫌な音がして、とうとうかつて自分の舌であった“そいつ”は洗面台の中へ落ちた。狭くて湿った口の中から開放されて自由になった“そいつ”には、足までちゃんと生えている。
己の本体であった人間に、微塵の心も残すことなく勝手にひとりで立ち上がった“そいつ”は、何とも言えない色合いに変化していく肉槐を自在に動かしてさっさと部屋を出て行ってしまった。
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