君には分からないよ

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僕は、顔に血が集まっていることを自覚しながら、「救急箱」と短く命じた。アニは、今度は黙って命令に従った。 「ありがと」 「ん」 絆創膏をとりだし、傷口に貼る。その様子を、ただジッと見続けるアニ。 「よし」 既に、絆創膏には血が滲んでいた。 不意に、アニが僕の指を手にとる。 「……!」 アニは、絆創膏の上から、僕の指を、 な、舐めた。 「あ、アニ、なに、して」 「君にしかない、この、赤いの、僕にも欲しいな……もっと教えて、これ、何でできているの?」 「し、知らな……アニ、には、無理だよ……だって、君は」 伏せられていたアニの瞳が僕を見る。 どきりとした。 目を合わせたのは、久しぶりだったから。 薄いグレーの瞳に吸い込まれた。虹彩が輝いて、瞳孔には僕がうつっている。 君は、アニは、一体、なにを見ているの? 「だって、……僕はなに?」 「だ……だって……」 僕は憚られた。なんだか怖くて。 湿ってもいない、熱くもない、アニの舌が、僕の指を這っている。 は、と息を吐き出した。 顔が熱い。 なんだこの、感覚は。ただ、無機物が僕の指に触れているだけだというのに、視界から、「舐められている」という情報を受け取ってしまう。 「や、やめてよ、アニ」 「どうして。君、さっきから変だよ。怪我したから?」 「……ぁ、ああ、そうだよ。だから、どいて」     
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