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「…零」
しばらくの沈黙の後、不意打ちで名前を呼ばれて思わずビクッとしてしまった。
正直、これは全く予想していなかった。
「あー、悪い。零って、綺麗な名前だなってずっと思ってたんだ」
かっこよくて、好きだな。
そう言って彼は小さく笑った。
初めて見た、本当の笑顔だ。
全身に一気に血が巡って、いつもは大人しく同じリズムを刻んでいた俺の心臓がどくんと大きく跳ねる。
心が躍るってこういうことを言うんだろうか。
あぁ…たまらないな。
「俺も好きだよ。秀」
「えっ?」
「秀って名前もいい響きじゃん。呼びやすいし」
「あ、あぁ!名前ね。呼びやすいってのは確かにそうかもな。ありがと」
へへへっと照れ笑いをして、前を向く。
電車が来て、一緒に乗り込む。
この日から彼はちょっとずつ、俺に心を許してくれるようになった。
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