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廊下の端から女子の会話が聞こえた。
「えー!中瀬くん狙いなんだぁ。意外ー!」
秀の名前が上がってピタッと足が止まる。
「どうかな?!いけると思う?」
「どうだろー?でも中瀬くん確か彼女いないよね?いけるんじゃない?」
ぞわり、と背中に嫌な感覚。
何だこれ。こんな感覚知らない。
気持ち悪くて取り除きたい。
どく、どく、と心臓の音が大きくなる。
「まぁ中瀬くん優しいし、告白したらオーケーくれるかもじゃん」
…だめだ。
「明るいから付き合ったら楽しそうだしねー!」
だめだ。
「あたしもっとクールな方が良いかなぁ。青山くんとかー」
きゃあきゃあと騒ぐ女子たちの会話に、腹の底からどす黒いものがせり上がってくるのを感じた。
だめだ。駄目だよ。
彼は俺のものだから。
渡さない。あの笑顔も、何もかも。
数日後。
廊下で一人の女子生徒とぶつかる。彼女が落としてしまった教科書やノートを丁寧に拾い上げ、必要以上に顔を近付けて囁く。
「ゴメンね、大丈夫だった?どこか痛いところない?」
赤面してうんうんと頷く彼女に追い討ちをかける。
「はい、これも。落としたよ」
そっと彼女の手に自分の手を重ね、小さな消しゴムを握らせた。そのままぐいっと引っ張って立ち上がらせ、笑顔で言う。
出来るだけ柔らかく。
「怪我してなくて良かった。気を付けてね」
しばらく彼女は真っ赤な顔のままぼーっと俺の目を見つめていたが、はっと我に返りパタパタと走り去っていった。
友だちもその光景を見ていたのだろうか、遠くで「きゃああー!」という声が聞こえる。
…全く、この程度で秀に告白しようだなんてバカげてる。
そう、その女子生徒とは以前、秀のことを好きだのなんだのと騒いでいた生徒だった。
正直自分の顔の作りなんてどうでもよかったが初めて役に立った気がするな。
早く手を洗いに行こう。
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