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「今日、暑いよな」
「あぁ」
制服も衣替えし、太陽の日差しが本格的に強くなり始めた頃。
あれからちょくちょく秀と一緒に帰るようになった。
秀と最寄り駅がひとつ違いなのは本当で、帰るときはいつも同じ路線の同じホームを使う。
大体サッカー部の方がちょっと遅くまでやってるから俺は待ってることが多いんだけど、秀は知らない。
というか大方、サッカー部のうるさい連中に引き留められてるんだろうな。
「部活してると本当汗がすごいっていうか、あー、でもバスケ部はあれか。屋内だからまだマシだったりするのか?」
当然だが二人きりだとどちらかが喋らない限り会話は続かない。秀はその無言が訪れるのを怖れているのか、次々と俺に話しかけてきた。
「うん」
「あー、そっか。良かったな…」
「…」
「…あー、え、っと」
「…ごめんな」
「え?」
「俺、話すの得意じゃないから」
「あ、ゴメン…うるさかったよな…」
「いや、違くて。お前の望む反応が出来なくて、悪い」
「あぁ、いや。俺が勝手に喋ってただけだし。嫌だったら言ってくれていいからさ」
嫌だよ。
俺の前であいつらと同じ態度はやめてよ。
「…中瀬はさ。話すのが、好きなの?」
「え」
じっと彼の目を見つめる。しばらくののち、彼は「あー…」と困ったように目線を逸らして、答えた。
「実は、そんなに…」
ちょっとだけ彼の本当を引き出せたことで頬が緩みそうになった。
まぁ聞かなくても知ってるけどね。
「そっか」
俺の返答はそれだけ。
それ以上何も聞かなかった。
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