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その時、不意に隣の部屋のドアが開いて、中から隣人が顔をのぞかせた。 同じマンションの住人とは言え、顔を合わす機会は少なく、すれ違えば挨拶する程度の間柄だが、隣の玄関口に奇妙なシルクハットの怪盗風の男が立っているのを見て、隣人はどこかギョっとした顔をしているように見えた。 仕方ない… 「あの、ここでは何ですから、どうぞ中にお入りください」 仕方なく塚原は、こんなヘンテコな出で立ちの男のことで、マンション中に変な噂が立ったり大ごとになるのを避けたくて、シルクハットのサーカス野郎を自室に招くことにした。 「そうですか、それでは失礼致します」 越前屋は悪びれることもなく、塚原がチェーンロックを外すと、そそくさと部屋に入り込んできた。 塚原は越前屋を部屋に招くと、ソファの椅子を勧めた後、キッチンへ行って冷蔵庫を開け、中からお茶のペットボトルを出して、中身をグラスに入れ、そのグラスを越前屋の前に差し出した。 「あ、お構いなく」 越前屋はそう言いながら、部屋の中を見回していたが、すぐに、 「D高原には昨日から行かれていたのですか?」 と話の続きを促した。 「ええ。昨日行って、夜は高原地帯に小さなテントを張って野営し、次の日も山の登り下りをして今日帰ってきました」 「お一人でですか?」     
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