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「はい、この切符を使って高原に行ってました。二つ判子が押されていると思いますが、最初のが、昨日ここから近いJR駅の改札で押してもらったものです。そして次の判子が本日高原からの帰りにD高原駅の改札で押されたものです」
「はあ、なるほど。昨日ここから出発されて高原へ行き、本日高原から帰ってこられたことの証拠というわけですね。確かに判子には日付が押されてますな」
「ええ。だから、そのF公園の階段にいた人物は私ではありませんよ。」
「ふーむ…」
越前屋は切符を眺めながら、唸っていた。
「それにD高原にある喫茶店や土産物屋なんかで話を聞いてもらえば、私がそこにいたことを店主が証言してくれると思いますよ。軽く世間話をしましたからね」
「そうですか。いや、どうもありがとうございました」
越前屋は、そう言って、こちら側に切符を差し戻しながら、冴えない顔付きで、ふーっと溜息をついた。
どうやらぐうの音も出ない証拠を見せつけられて、捜査に行き詰まったというところだろうか。
これで、こちらが容疑者の線は消えたと思ったのかもしれない。
「イヤー、実は大変弱っておるのです」
越前屋は頭をかきながらそう言った。
「はあ」
「この事件はなんだか非常に不思議な事件でしてね」
「そうなんですか?」
「ええ、何しろ遺体が消失してしまっているんですよ」
「へえ…」
遺体が消失??
すると何か?あの後、あの男の死体は消えてしまったというのか?
まさか…奴は生きていたのか?
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