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「青春18切符は一日中どれだけ乗っても1回分が消費されるだけの切符です。だからあなたが、もし昨日自宅に帰って来たとしても判子は一回押されるだけです。そして今日の朝、公園へ行き階段を通ってウォーキングをした後、またこの近くのJR駅から青春18切符を使わず、普通に切符を買ってD高原駅まで行き、帰りに青春18切符を使ってD高原駅の改札で今日の日付の判子を押してもらえば、結局、切符上の判子は今と同じ形になります。そうなると、現地の喫茶店や土産物屋の店主と話したということも、今日の朝、あの公園の階段を、あなたが通らなかったことの証拠にはなりません」 「いや、そんなことはしていませんよ!私は昨日から高原へ行って一泊してきたんだ!ミニテントを高原に組み立てて野宿したんです!あのミニテントには、高原の草や土の痕が残ってるはずです!今の警察の優秀な科学捜査なら、そんなの簡単に調べられるはずですよね!」 「まあそれも、あなたが今日の朝、公園の階段を通らなかったことが立証出来ていない以上、後で、例えば、今日高原へ行って高原の土や雑草の痕を付けてくることは可能ですよね」 越前屋はそう言って、不敵に微笑んだ。 しまった… 余計な推理を披露してしまったな、 と塚原は焦った。 自分が冤罪であり、他に犯人がいることを示唆する推理を披露したがために、逆に自分がせっかく作って来たアリバイを崩されてしまうとは… 塚原は内心、終わった、と思いながらも、何とか悪あがきをするしかないと思った。 まだまだ言い逃れのチャンスはある。 諦めるな! まだまだ言い逃れられる! 「し、しかし、私は犯人じゃありませんよ!」 塚原は何とか虚勢を張って、越前屋を睨みつけながら、大声でそう叫んだ。 それはいささか断末魔の叫びに、塚原自身にも思えていたが、それが塚原の精一杯の虚勢であった。     
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