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「実はですね、部下の塚本金四郎 景元くんからは、もう一つ、頼んでおいたことの返事を今もらいましてね。あなたの、あの大き目の登山用のリュックに彼女のハンカチとおぼしきものが入っていたということは、きっとあなたと彼女はあの高原に一緒に行ったのだろうと、私思いましてね、まあカップルで行くなら、当然どこかに宿泊するはずなので、ちょうどいい宿泊施設がないかを調べてもらいました。そしたら、ありましたよ。あの高原の上方の、標高の高い場所にはリゾートホテルがあるそうで、なんでもホテルの部屋やテラスから、多くの山々の絶景が見られる、カップルに中々人気のホテルだそうです。彼女が行方不明になった日、つまり彼女があなたに殺された日のホテルの宿泊名簿を調べてもらいましたが、あなたと彼女が宿泊した記録があると、今、ホテルから塚本くんの方に連絡を戴きましたよ」
理代子との思い出…
今も胸に燻る、淡い思い出…
あの、リゾートホテル。
理代子が泊まりたがったホテル。
ホテルの部屋やテラスから、多くの山々の絶景が見られることから、いつか二人で泊まりたいねと理代子と話したあのホテル。
そして一緒に泊まった、あのホテル。
幸せの絶頂に登ったつもりだったのに…。
その後、理代子から別れを切り出されるとは思わなかった。
理代子の兄が交際に反対していることは知っていた。
一度、あの兄には家に怒鳴り込まれたこともある。
あんな兄など殺してやりたいと、あの時思った。
だが理代子にまで拒絶されてしまうとは。
あの高原の、空き地のような場所で、理代子と口論になった。
いつの間にか、激昂した挙句、持っていた登山ナイフで理代子を刺していた。
遺体は、その空き地の崖の近くに埋めた。
あの時はまだ、あの名も知らぬ花は咲いていなかったな。
ナイフは高原の平地の、あの流れの速い一級河川にビニール袋に入れ、紐で縛って捨てた。
今日もそれに倣って、同じようにナイフを捨てただけだ。
結局、あのハンカチを、あの時、ナイフと一緒に、川に捨てられなかった…。
理代子が気に入っていた、あのハンカチ。
あれを捨てたら、
もう理代子とは、
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