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花びらの敷き詰められた小道をさらに進んでいくうちに、まるでお伽話の主人公になった気分になっていた
平凡な公園の風景が、桜の花に彩られて素敵な春の色が、浮き出ている。
桜の下に一つの人影を見つける。
美乃梨は、桜の木の下の人影に目を吸いつけられた。
(神主?近く神社はなかったよね。)
空色の狩衣に、白い袴と黒い烏帽子。
平安時代の貴族のような出で立ちだ。
美乃梨がこのような服装の人物を見るのは、神社などであったから、
とっさに神主と思ったのは無理からぬことだった。
美乃梨が、その人物に視線が釘付けになってしまっていると、
彼女の言う所の神主と思しき人物はゆっくりと振り向く。
漆黒の瞳と烏帽子からこぼれる漆黒の髪が印象的なほっそりとした青年であった。
彼は、桜達と同じく思いやりに満ちた優しいまなざしで微笑だ。
「おはようございます。」
穏やかで柔らかな旋律を奏でる楽器のような声が、口元から流れ出る。
「あ、おはようございます。」
美乃梨は、少し慌てて頭を下げる。
彼の優しそうな振る舞いに、ほっとした。
「お散歩ですか?」
青年が語りかけてくる。
「はい、なんだか目が覚めてしまって。あの・・・・。」
美乃梨は、少し聞きづらそうにもじもじした。
「なんでしょう?」
柔らかな微笑み。
「あのー。神主さんですか?すいません、珍しい恰好をされているから。」
美乃梨は、そう言ってから、珍しいとは失礼であったかと少し後悔する。
「まあ、そのようなものですね。」
青年は、クスリと笑う。
「綺麗ですね、桜。」
美乃梨は、気恥ずかしさから、そんな言葉を選んだが、本音ではあった。
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