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永遠に感じられた帰り道も、ようやく終わりへとたどり着いた。
杏奈の家の屋根が見えた時、俺はほっとしたような、悲しいような複雑な気持ちになった。
半分持っていた荷物を杏奈に手渡す。
杏奈は俯きがちにありがとう、と微笑んだ。
早く帰りたいのに、その困ったような笑顔に後ろ髪を引かれるような気持ちになる。
何かフォローをしなくてはと思うのに気の利いた言葉の一つさえ浮かんでこない。
やっぱり俺はいつまでたっても変われない。
じゃあ、と背を向けようとした俺の腕を杏奈が引いた。
杏奈の意図が読めなくて顔をうかがうと、何やら神妙な面持ちをしていた。
「杏奈?」
しばらくして杏奈は、持っていた大量の紙袋の中の一つを俺に押し付けた。
とっさに受け取ると、杏奈はじゃあ、とだけ言って家に入ってしまった。
突然のことに気を取られてフリーズしていた俺は、杏奈が鍵を閉める音でようやく動きを取り戻した。
渡された紙袋は、杏奈が最後に渡そうとしたものだった。
紙袋を開いてみると、きれいに包装された青いナイロン袋が入っていた。
リボンをほどくと、袋の中には先ほど杏奈が俺に選ばせたパジャマの男性版が入っていた。
困惑したまま袋からパジャマを出すと、袋の底に小さなメッセージカードが入っていた。
【景へ 一日早いけどお誕生日おめでとう これからもよろしく】
カードには杏奈独特の丸くて小さい文字でそう書かれていた。
その時初めて俺は翌日に自分の誕生日が迫っていることに気づいた。
さっきの杏奈のニヤついた顔がよぎる。
そうか、杏奈は俺を喜ばせようとしたのか。
わざわざ俺に好みのほうを選ばせて。
それなのに、俺は…
慌ててスマホで杏奈に電話をかける。
規則的な電子音は、やがて見知らぬ女の声に変わってしまった。
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