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30分後。
俺は両手に大量の紙袋を抱えてエスカレーターに乗っていた。
勿論、すべて杏奈の買い物だ。
「おい、もうこの辺にしとけよ。」
「なに、そんくらいでもうくたばる気なの?
これだからインドア派は…」
前にいた彼女が呆れた顔で振り向いた。
え、近っ…
いつもは俺より低いところにある彼女の顔が、ちょうど俺の真ん前にある。
そのことに激しく動揺して、思わず目線をそらしてしまった。
「じゃなくて、買いすぎだって言ってんだよ。こんなに服ばっかいらねぇだろ」
そういうと彼女は、前に向き直って呟いた。
「だって、デートに着ていく服が欲しかったんだもん。」
その一言でそれまで高揚していた俺の気持ちが急激に冷え切った。
だもん、じゃねぇよ。
俺より年上のくせに。
彼氏とのデートに着ていく服なんか、俺に持たせるなよ。
そう言ってやりたい気持ちをぐっと飲みこみ、目の前のうなじを見つめる。
眩しいくらいに白いうなじが、悔しいけど綺麗だと思った。
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