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藤原先輩の横顔を見た数日後、私は財布を片手に購買へ向かった。
購買の前にはたくさんの生徒。それにも関わらず、すぐに目に付いたのは目元にふたつの泣きボクロがある人物で……。
「嘘……」
数日前に横顔を見た時はまさかと思ったけど、あの時よりも近くで見れば横顔でも分かる。藤原敬悟その人だと……。
彼はこちらに気づくと、目を丸くした。
驚いた私は反射的に踵を返し、階段裏の薄暗いスペースに隠れた。
ポニーテールにしていた髪を解き、自分の髪に埋もれる。昔からの癖で、これをすると大抵気持ちは落ち着いた。
「なぁ、凛真やろ?」
すっかり男らしくなった声に懐かしい関西弁に顔を上げると、その人はいた。
「やっぱりそうや。なんで逃げたりしたん?」
敬くん……藤原先輩は私の隣に座ると、悲しそうな顔をして聞く。
「その、まさか藤原先輩が転校してきてると思わなかったので……。気が動転してしまって……」
私がそう言うと、藤原先輩はプッと吹き出したかと思えば大笑いした。
「な、なんで笑ってんですか!?」
「なんやねん、『藤原先輩』って。それに敬語もいらんわ。前みたいに呼んでくれへん?」
「えっと、敬くん……?」
得体の知れない気恥しさに赤くなりながら、昔の呼び方で彼を呼ぶ。
「ん」
敬くんは満足そうに笑うと、私の頭をポンポンと撫でた。
「なぁ、せっかく会えたんやし人おらんとことかあらへん?」
「いきなり言われても……。えーっと、どっかあったかなぁ?」
私は必死に思考を巡らせる。
「たぶん、いないと思う」
私は立ち上がると歩を進めた。敬くんはそれについてくる。
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