金森颯斗Ⅰ

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それからまだ暗い駅までの道のりを一人、速足で歩く。 幸い寒い季節ではなかった。 早く昨日の仕事を終わらせないと、上司から更なる嫌味を言われることだろう。 その思いが颯斗を一層早足にさせた。 いつもの半分の時間で駅に着いた颯斗は、列車を待つ列にきちっと並ぶ。 心なしか、朝早い電車に乗っていく人ほど表情が暗い気がした。 きっと自分も今こんな顔をしているんだろうな、と思った。 「電車が参ります。危ないですので黄色い線の内側までお下がりください」 もう何度聞いたかわからないアナウンスが流れた。 颯斗には直樹を責められない理由があった。 それは劣等感。 直樹はあんな趣味があろうときちんとそれ以上の金は稼いでくる。 対して颯斗は、直樹の倍働こうが直樹の二分の一の給料しか出ないのだ。 瑠依が働いていないのを考えると、あの家の家賃や光熱費、水道代もろもろ直樹の財布から出ているといっても過言ではない。 だからこそ、自分の苦労して作った夕食をすっぽかされようがああやって、たしなめることしかできなかった。 会社は家から約四十分の中小企業。 颯斗はそこで毎日電話をかけていた。 だから、多少なりともトーク力はある。 いやしかし、ここ毎日全く成果がないことを考えると、話すのが下手なのかもしれない。 毎日決まった本数の電話をかける。 それから顧客への対応。 さらには、毎日入ってくる膨大なデータを整理する。 仕事は次から次へと増えていく。 もたもたしていると首になってもおかしくなかった。 颯斗はさっそく自分の席に着くとパソコンを開いた。
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