金森颯斗Ⅰ

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午前0時、山のような仕事を片づけた颯斗は大きく伸びをした。 ようやく帰れる。 その事実が颯斗の心を軽くした。 恐らく家ではお腹をすかせて待っている、瑠依と直樹が・・・。 と考えかけたが、すぐに思い出した。 確か今日、瑠依はどっかのゲーム大会とやらで神奈川に行っている。 直樹だっていつもの様子を見ていると帰ってくるとは思えなかった。 なんのための同居か。 不意にそう考えてしまう。 颯斗は自分のパソコンを片付けると駅へ向かった。 駅には自分と同じように、夜遅くまで仕事を強いられたサラリーマンたちが死にかけた目で列を作っていた。 颯斗だってその一人である。 帰り道、とりあえずコンビニで弁当を買った。 一人分をわざわざ作る気にはなれない。 飯食って、仮眠とってまた出勤か。 颯斗はそんな計画を立てながら、家路を急いだ。 そして、驚いた。 誰もいないはずの家に明かりがついている。 一体誰がいるのか? 急いで玄関の鍵を開ける。 そして、玄関に見覚えのある靴が置いてあるのを見つけた。 この高級そうな革靴は直樹だ。 慌てて靴を脱ぎ捨てるとリビングへ急いだ。 予想通りそこにいたのは直樹だった。 料理本を片手にフライパンを握っている。 「何してるの?」 思わず問いかけた。 すると直樹が驚いた様子で振り向き、颯斗を見て安心したようにため息をついた。 「なんだ。颯斗か。随分と遅かったな」 「何してるんだよ?」 「見てわからないのか?」 直樹が自分の持っているフライパンを持ち上げた。 「夕食を作ってるんだけど」 「もう、夕食って時間じゃないでしょ」 颯斗は呆れた表情で言った。 なぜこんな夜更けに料理などしているのか、颯斗には全くもって理解できなかった。 「何作ってんの?」 とりあえず、聞いてみた。 「生姜焼き」 あっさり答えが返ってきた。 「そ、そうなんだ。なんで作ってんの?」 もう、夜中の二時である。 そう聞くと直樹は少し考えてからこう答えた。 「え?だっていつも颯斗が作ってくれるからいいけど。今日帰ってきたら誰もいないからさ。しょうがなく作ってたんだよ。早めに帰ってこれたし、いつも任せっきりじゃ悪いからね」 驚いた。 そして涙が出るほど嬉しかった。 「でもわざわざ。俺、弁当買ってきたし」 「え?じゃあそれ置いといてこっち食おう!せっかく頑張ったんだし」 「ありがと・・・」 少し小さい声で言った。 それでも直樹はしっかり聞こえてたらしく、 「どういたしまして」 と得意の笑顔で言った。
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