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次の日、颯斗は少しうきうきした気分で会社へと向かった。
朝五時、暗い顔でホームに並ぶ顔を横目に颯斗は電車に飛び乗る。
まったく同じ風景だ。
会社に行ったって、きっと昨日と何も変わらない。
それでも颯斗にとっては今までのどんな朝よりも、体が軽かった。
いつもより十五分早く会社に到着した颯斗は、エレベーターに乗り合わせた課長に
「おはようございます」
と元気よく声をかけた。
唖然としている課長ににっこりと笑いかけ、課長を残して三階でエレベーターを降りると、オフィスの自分の椅子に腰かけた。
颯斗は十五分かけて、ばらばらに散らばった机の上をきっちりと整理すると朝のミーティングへと出向く。
そんな颯斗でも正午を過ぎたあたりにはその元気がしぼみ始めていた。
いつまでたっても終わらない仕事の山。
人の気も知らずに次々と無理難題を押し付けてくる課長。
颯斗は朝、課長に向って笑顔であいさつしたことを猛烈に後悔した。
所詮ブラック企業など、どれだけ調子がよくったって、定時になんか帰れやしないのだ。
定時である五時を過ぎたあたりから、徐々に社内の雰囲気が暗くなってきた。
当然颯斗もその中の一人である。
自分の作業効率が悪いのは颯斗自身にもわかっていた。
それでもこの負のループから抜け出せずにいた。
午前十二時をまわったあたりから少しずつ人が減ってきた。
みんな終電に乗り遅れまいと必死だ。
そんな中、終電に乗ることなどとうの昔に諦めていた颯斗は、エナジードリンクを片手に、上司たちに押し付けられた仕事に没頭している。
深夜一時、颯斗はオフィスの片隅にポツンと腰かけて、スマホをいじっていた。
つかの間の休息タイムだ。
とはいえ、誰かからメールが来るわけでもなく、結局手に取ったスマホをそのままポケットに入れた。
「もう、お帰りになるんですか?」
後ろから、若い女性の声が聞こえた。
「うわっっ・・・」
颯斗は驚きのあまり奇声を上げてしまう。
もちろん驚いたのはその女性のほうだった。
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