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「えっと・・・、君は?」
颯斗の後ろに立っていたのは、明るい茶髪を後ろでまとめている、整った顔立ちの新入社員で怪訝そうな顔で颯斗を見ていた。
「私、藤原朱音と申します。毎日、遅くまで残っていらっしゃるようでしたので、少し気になっていたのです」
朱音は、颯斗のことをまじまじと見つめている。
ところが、圧倒的に女性経験の少ない颯斗には、この状況で何を話すべきかが全く思いつかなかった。
きっと直樹ならこういう時は、かっこいい一言を返すのだろうなと頭の片隅で考えながら、懸命に言葉を絞り出す。
「あ、ありがとう・・・」
必死に考えて、出たセリフはたったこれだけだった。
「あの・・・、今日はもう遅いのですが、今度早く上がれた日にでも一緒に食事しませんか?」
さらに朱音が続ける。
その一言で颯斗の頭は完全にフリーズした。
なぜ自分なのだろうか。
そんな思いが颯斗の頭の中に渦巻く。
それからしばらくして、ようやく動き始めた頭をフル回転させ、颯斗は最後の一言を絞り出した。
「ぜ、ぜひ!」
そうして、カバンを持つと朱音を置いて、大慌てでオフィスを飛び出した。
これが、金森颯斗と藤原朱音の出会いだった。
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