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その日、颯斗はこれまでにないほどの勢いで、家路を急いだ。
間一髪で終電に間に合った颯斗は丁度、駅に滑り込んできた通勤特快に飛び乗り、池袋にある自宅へと向かう。
途中、スーパーで夕食の材料を買って帰った。
今夜のメニューは肉じゃがだ。
家に帰ると、靴が一足。
これは瑠依のものだ。
どうやら神奈川のゲーム大会から帰ってきたらしい。
「瑠依?大会どうだった?」
大して気になってもいないが、一応聞いてみた。
すると
「まあまあかな?」
と瑠依にしては、比較的機嫌のよさそうな声が返ってきた。
予想以上にうまくいったらしい。
夕食を作りながら、朱音とはメアドの交換すらしていなかったことに気が付いた。
さすがにあの逃げ方はまずかったかな、と今になって思い始めていた。
「ねえ、あのあと直樹とどうなったの?」
気が付くと隣に瑠依がいた。
ジャージにスウェット、おまけに前髪のせいで表情が読めない。
「どうって・・・。そういえば、昨日は直樹が夕食を作って待っててくれたんだよ」
長い前髪の下で目をわずかに見開いたのが分かった。
「へぇ・・・、直樹が夕食を・・・。そんなことして、罪滅ぼしのつもりなのかね?」
相変わらずの毒舌だった。
そして、いつも通り気が付かないうちに自室へと戻っていった。
夕食を作り終わり、ふと時計を見ると午前二時半。
すでに夕食の時間ではなかった。
この肉じゃがは朝ごはんにしようと、思い直した颯斗は短く仮眠をとることにした。
今日、朱音にあったらいったいどんな顔をすればいいのだろうか。
そんなことを考えながら。
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