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篠原瑠依Ⅰ
瑠依は自室に戻ると再びゲームに没頭した。
瑠依は中三の時にオンラインゲームに出会った。
リアルではまともに話せないくせに、ゲームの中でだけは言いたいことが流暢にあふれ出す。
こうして瑠依は、ゲームに明け暮れ、運よく受かった高校も途中で中退してしまった。
それから何とかアルバイトで食いつなぎ、ゲームをする日々。
しかし、食費以前に課金額が馬鹿にならない。
ゲーム生活をしばらく全うしてから、十八の時にyoutubeに出会った。
そして、youtuberをやりながら、ようやく食費が稼げるようになったのが、二十歳のこと。
しばらくは家も持たず、ネカフェを転々としながら生活していた。
それから二十五の時、歌舞伎町のど真ん中で直樹に拾われた。
そして今に至る。
毎日ゲームに明け暮れ、youtubeにゲーム動画を上げる日々は今でも変わってはいない。
午前五時ごろ。
そろそろ寝ようかとヘッドフォンを外したとき、階下から鍵をかける音が聞こえた。
おそらく颯斗が出かけたのだろう。
瑠依がこの家にやってきたころ、すでに颯斗と直樹はこの家に住んでいた。
初めのころは、颯斗の作った夕食を三人で囲むこともしばしばあったのだが、最近ではめっきり減ってしまった。
別に誰かが特定悪いというわけではない。
ただ、三人の生活リズムが合わなくなっただけ、ただそれだけのことなのだ。
瑠依とて、例外ではない。
当初は、直樹に拾われた恩もあり、苦手ながらもみんなで食卓を囲んでいたが、ここでの生活に慣れてくるにつれ、コミュニケーションがあまり得意ではない瑠依は、夕食中に一人で部屋に閉じこもっていることも多くなってきた。
さらに颯斗もここ半年くらい、ほぼ毎日遅くまで帰っては来ない。
はたから見ていると今にも自殺しそうな会社員だ。
会社勤めなどしたこともない瑠依だが、さすがに毎日薄暗い中仕事へ行くのは異常だということぐらいはわかる。
瑠依はふとのどの渇きを感じて、下の階まで行くことにした。
瑠依は重い腰を上げると、部屋のドアを開ける。
階段の踊り場にある窓から差し込む朝日がまぶしかった。
幸い直樹はまだ帰ってきていないようだ。
瑠依は自分のコップを取ろうとして、机の上に置かれている弁当箱に気が付いた。
明らかに作ったばかりのそれは颯斗のものだった。
颯斗が何度かその弁当箱を洗っているのを見たことがある。
瑠依はその弁当箱を届けるか否か考え込んだ。
気づかなかったと見ないふりをすれば済むことだ。
直樹が帰ってくれば届けに行ってくれるだろうが、帰ってこなかったら。
瑠依は少し考え込んだのち、
「なんで俺が・・・」
とつぶやき、弁当箱を持つと、いつものジャージ姿で家を出た。
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