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家を出た瑠依はジャージの襟を立てると、うつむきがちに歩いた。
あまり人に見られたくはなかった。
颯斗の会社の場所は以前聞いたことがある。
約一時間ほどかけて、瑠依は颯斗が務めている会社に到着した。
その会社はオフィス街の隅にあった。
「金森颯斗君はいますか?金森颯斗君は・・・金森・・」
歩きながら復唱する。
はたから見れば完全におかしい人だった。
ネットや身内では言いたいことを言えるくせに外に出るとこのざまだ。
瑠依はため息をついた。
七階建てのビルの一階、受付で瑠依は道中ずっと練習してきた一言を絞り出した。
「あのぉ・・・、か、金森颯斗君はい、いますか?」
以前よりはうまく喋れた気がする。
それでも受付嬢は唖然としていた。
「えっと、なんとおっしゃいましたか?」
聞き返される。
いつものことだ。
瑠依は再び同じフレーズを繰り返した。
二回目でようやく理解したらしく、
「社員の方なら、今は七階でミーティング中だと思います」
と笑顔でエレベーターを指した。
瑠依はぐずぐずしていてもしょうがないと思い、早速エレベーターに向かった。
スーツ姿のサラリーマンだらけであるこの空間で瑠依はものすごく浮いている。
周りからの奇異の目を無視して瑠依はエレベーターに飛び乗った。
七階につくとたった今、ミーティングが終わったばかりのようで、部屋から大量のサラリーマンが放出されていた。
その中で瑠依は颯斗の姿を見つけた。
すると颯斗もあきらかに場違いな服装の瑠依に気づいたらしく、目を丸くした後、手の弁当箱に気づき、
「瑠依!」
と声をかけながら近寄ってきた。
当然ほかの社員も瑠依と颯斗に目を向ける。
大勢に注目されることに慣れていない瑠依は、無言で颯斗に弁当箱を突きつけると
「じゃあね」
と小声で言って、この場を去ろうとした。
しかし、颯斗は少し暗い顔で瑠依を引き留める。
そして、そのままフロアの端まで瑠依を連れていくと、言った。
「あの、瑠依にちょっと話があるんだ」
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