篠原瑠依Ⅰ

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二年前、瑠依は人生最大の危機を迎えていた。 突如、満員になる行きつけのネカフェ。 ホテルでも探そうかと新宿まで出てきたが、見事にすられる財布。 深夜二時にATMなど空いていない。 野宿コースを覚悟した瑠依は、ホテル街の端に腰を下ろした。 けばけばしいネオンがうるさかった。 幸い、辺りにはホームレスと酔いつぶれる人。 瑠依が座り込んでいようと大して目立たなかった。 深夜三時。 生暖かい湿った風に頬を撫でられて、瑠依は目を覚ました。 大分、人通りも少なくなってきたようだ。 そのとき、 「なおきぃ~、もぉ帰えんの?もっと遊んでいこぉよ!」 と吐きそうなぐらいに甘ったるい女の声が聞こえた。 見るとそこには、長身の男と腕を組み、不確かな足取りで歩く、女がいる。 「僕、明日朝早いし、また今度な」 男のほうは笑顔を浮かべながら、タクシーを呼ぼうと手を挙げた。 二人の前に一台のタクシーが止まった。 女をタクシーに押し込もうとする男とそれを拒む女。 タクシーの運転手もさぞかし困っていることだろう。 瑠依がその様子をじっと見つめていると、こちらを向いた男と目が合ってしまった。 慌てて目を背けた瑠依だったが、男は見逃さなかったらしくこちらにつかつかと歩いてきた。 そして、女に向けたのと同じ、反吐が出そうな笑顔で言った。 「待たせてごめんな。あいつがなかなか帰んなくてさ」 唖然としたのは瑠依だけではない。 女のほうも呆然としていた。 男はそんな女のほうを向くと、ごめんねと手刀を切った。 しかしそんな甲斐もなく、 「待ち合わせしてんなら、そう言ってよ!いいわよ、私帰る」 と今までとは打って変わって、しっかりとした足取りでタクシーに乗り込んでいった。 「あぁ、嫌われちゃったかな?」 少しも残念さをにじませずに男は言った。 それから瑠依のほうに向きなおった。 沈黙が二人を襲う。 ルックス完璧なスーツの男と、地面に座り込んだジャージの冴えない瑠依は、非常に奇妙な組み合わせだった。
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