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瑠依は駆け足で家を目指した。
すっかりスーパーに長居してしまった。
肉の種類の多さに途方に暮れていたからだ。
時刻は午後八時。
瑠依は大急ぎで玄関の鍵を開けると、靴を脱ぎ捨ててキッチンを目指した。
意外にも直樹が帰ってきている。
「あー、おかえり、はや・・・」
颯斗と言いかけて、直樹は手に持っていたスマホを床に落とした。
「瑠依!?」
「そんなに俺が珍しいかよ」
小さな声で言った。
そして、瑠依がキッチンに入っていくのを直樹は唖然として眺めていた。
「いやいや、どうしたの?」
口調こそ軽いが顔が凍っている。
「料理・・・」
「・・・!?」
ついに直樹は言葉を失ってしまったようで一言も発しなくなってしまった。
瑠依がスーパーの袋から肉や野菜を出すさまを放心状態で見ている。
それもそうだ。
昨日まで部屋に引きこもっていて、三か月に一回秋葉原に行くくらいしか外出しない瑠依が、いきなりスーパーの袋を片手にキッチンに入っていったら、誰もが驚くだろう。
瑠依はスマホの画面にカレーの作り方を表示させると、早速挑戦してみることにした。
瑠依は十分ほどの捜索の末、ようやく包丁を見つけ出すと、袋から玉ねぎを一個取り出す。
まな板もひかず、玉ねぎめがけてスイカわりのように両手で包丁を振り下ろす。
しかし、包丁は玉ねぎの隅っこに小さな傷を作っただけで、代わりにキッチンの台の上に浅い溝を残した。
球体は料理の敵だ。
玉ねぎをあきらめた瑠依は、次にニンジンを取り出した。
そして、ニンジンめがけて包丁を振り下ろす。
力を入れすぎたのか、派手な音がキッチンに鳴り響いた。
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