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坂本直樹 I
坂本直樹、職業医者は大急ぎで池袋の通りを走っていた。
急患が出たとスマホにメールが入ったのは一時間前のことだ。
しかし、カフェテラスで居眠りをしていた直樹は全くそのことに気づいていなかった。
大急ぎで曲がり角を曲がった直樹は、前から来た人に真正面からぶつかり、見事に転んだ。
「ごめん・・・」
直樹はそう呟いて、通りすぎようとした。
しかし、
「すいません」
と言ってこちらを振り返ったのは美しい女性だった。
女性は直樹を見つめながらさらに言う。
「すみません、私の不注意で。お怪我はないですか?もしよければ、手当て致します。私の家、すぐそこなんです」
直樹は女性の顔を見たまま、数秒間固まった。
それから、スマホのメールと女性の顔を数秒間見比べた後、得意の笑みを浮かべて
「ええ、ではお言葉に甘えて」
と意味もなく女性の手を握った。
数週間後にはこの病院も首になっていることだろう、と直樹は考えた。
ただ、何度職場を首になっても直らない性格というものが直樹にはある。
それは重度の女たらしと言うことだ。
男は何時であっても女の誘いを断ってはならない。
直樹はそう心の中で言い訳をすると女性についていく。
ついた先は意外にも大きな屋敷だった。
直樹は女性の家に入る寸前、片手で病院に向けて返信すると堂々と家に入っていった。
どうせ、一時間も遅れている。
すでにほかの医者が変わっているだろう。
直樹はそう思った。
医者にあるまじき考えだがこれが坂本直樹の生き方だった。
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