坂本直樹Ⅱ

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「何見てんの?」 いつの間にやら、料理を作り終えたらしい瑠依が、直樹の隣でスマホの画面をのぞき込んでいた。 「料理終わったのか?」 「このイルミネーション、名古屋にあるやつでしょ?」 瑠依は直樹の質問を無視すると、直樹のスマホに流れていた動画を指差した。 「知ってんのか?」 試しに聞いてみると、 「あたりまえだろ」 と当然のように返された。 「youtuberの中でも人気スポットなんだよ。Twitterでも人気が出てるみたいだし」 瑠依の言葉に納得する。 確かにそういうことなら、瑠依が知っていてもおかしくはない。 「ねえ、行こうよ」 「え?」 突然の問いかけに戸惑った。 「俺も行ってみたいからさ」 その言葉でようやく、この文の目的語がこのイルミネーションであるということに気が付いた。 そして、一秒後にはそれが自分に向けられていることを再確認する。 「一緒に!?」 「俺が一緒に行ったら、不満なのかよ」 とあたりまえのように口をとがらせる瑠依。 確かに普通の人ならそう言うだろう。 だがそれを瑠依が言うとなれば話は別だ。 出会ってからことごとく、直樹たちへの付き合いを避けてきた瑠依が。 「颯斗に何か言われたの?」 瑠依が変わった理由は、颯斗かもしれないと思い始めた。 「は?なんもねーよ」 しかし、ここではやはり、いつも通りの瑠依だった。 「どうせ行くならさ、颯斗も誘おうぜ」 と直樹が言うと 「あたりまえじゃん」 と瑠依は言った。 それから瑠依は台所に戻っていく。 何か焦げ臭くないかと思った時には、もう遅かった。 「うわぁ」 瑠依の泣きそうな声とジュワッという、嫌な音とが重なった。 三十分後、結局半分くらいの量になってしまったカレーは、無事に白いご飯の上に乗っかっていた。 少し野菜の切り方が雑な気もするが、初めて包丁を握ったと思えば、上出来な方だろう。 一口食べると、固まったルーの味がした。 「やっぱり、レトルトのほうがうまいな」 と瑠依がボソッとつぶやく。 「そういうこと言うなよ」 初めての料理なんてそんなものだ。 「いつ行くの?」 少し考えてから、それが先ほど誘われたイルミネーションの件だと気が付いた。 瑠依の話はいつだって唐突だし、何かが足りない。 「僕も病院の予定とかあるからなぁ。颯斗にも予定を聞いておかないと」 先日のことを思い出すと、有給などいともたやすくとれそうだが、念のためそう答えておいた。 「あ、そう」 瑠依は、自分で話しかけてきたとは思えないほど、そっけない返事を返すと、 「ごちそうさま」 と一言、自室へ戻っていった。 相変わらずマイペースだった。
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