坂本直樹Ⅱ

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「そろそろ昼食だよ」 そんな声で直樹は飛び起きた。 何年も前に別れた、最初で最後の恋人の声に聞こえたのは、きっと気のせいだ。 目の前に颯斗の、よく見ればイケメンの部類に入るのではないかと思う、顔があった。 隣では相変わらず、瑠依がゲームに没頭している。 「あと五分」 と瑠依。 その言葉を前にも聞いた気がするのは気のせいだろうか。 直樹は狭い車の中で精一杯伸びをした。 眠気はすっかり取れている。 直樹と颯斗が車の外に出ると、しぶしぶといった感じで、スマホを握りしめたままの瑠依が車から降りた。 「昼食どこで食べようかな」 と嬉しそうな颯斗が先頭を行く。 結局歩いてる途中で見つけた、中華料理屋で軽い昼食を済ませることになった。 直樹は颯斗の仕事場での愚痴を聞きながら。 瑠依は食事中でもスマホを手放すことはなかった。 「でさ、俺の上司がさ、終電間際になって仕事押し付けてくるんだよ。しかもメールで。いつも見てから見なきゃよかったって後悔するんだ」 「大変だな。会社員も」 「本当だよ。何度わけのわからない仕事をやらされたか。あやうく、自分の勤めている会社が何の会社なのか忘れかけたよ」 「へぇ、広告代理店だっけ?」 「そうそれ」 「この間なんてさ、何をやらされたと思う?会社の懇親会で使うらしい、着ぐるみの修復だよ!」 「しかも、その後に・・・」 颯斗の愚痴は飽きることなく続いていく。 素面(しらふ)でよくここまで愚痴を言えるものだと感心した。 酒が入っていようといまいと、平気で口説き文句を振りまく自分を棚に上げて。 小一時間も続いた昼食は、午後一時ごろにようやく終わりを迎えた。 「じゃあ、出発しよっか!」 皆が車に乗り込んだ。 今度は颯斗が後部座席で、直樹が運転席だ。 そしてまた、長時間のドライブが始まる。
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