21人が本棚に入れています
本棚に追加
「そろそろ昼食だよ」
そんな声で直樹は飛び起きた。
何年も前に別れた、最初で最後の恋人の声に聞こえたのは、きっと気のせいだ。
目の前に颯斗の、よく見ればイケメンの部類に入るのではないかと思う、顔があった。
隣では相変わらず、瑠依がゲームに没頭している。
「あと五分」
と瑠依。
その言葉を前にも聞いた気がするのは気のせいだろうか。
直樹は狭い車の中で精一杯伸びをした。
眠気はすっかり取れている。
直樹と颯斗が車の外に出ると、しぶしぶといった感じで、スマホを握りしめたままの瑠依が車から降りた。
「昼食どこで食べようかな」
と嬉しそうな颯斗が先頭を行く。
結局歩いてる途中で見つけた、中華料理屋で軽い昼食を済ませることになった。
直樹は颯斗の仕事場での愚痴を聞きながら。
瑠依は食事中でもスマホを手放すことはなかった。
「でさ、俺の上司がさ、終電間際になって仕事押し付けてくるんだよ。しかもメールで。いつも見てから見なきゃよかったって後悔するんだ」
「大変だな。会社員も」
「本当だよ。何度わけのわからない仕事をやらされたか。あやうく、自分の勤めている会社が何の会社なのか忘れかけたよ」
「へぇ、広告代理店だっけ?」
「そうそれ」
「この間なんてさ、何をやらされたと思う?会社の懇親会で使うらしい、着ぐるみの修復だよ!」
「しかも、その後に・・・」
颯斗の愚痴は飽きることなく続いていく。
素面でよくここまで愚痴を言えるものだと感心した。
酒が入っていようといまいと、平気で口説き文句を振りまく自分を棚に上げて。
小一時間も続いた昼食は、午後一時ごろにようやく終わりを迎えた。
「じゃあ、出発しよっか!」
皆が車に乗り込んだ。
今度は颯斗が後部座席で、直樹が運転席だ。
そしてまた、長時間のドライブが始まる。
最初のコメントを投稿しよう!