坂本直樹 I

5/6

21人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
突然声をかけられた女性は一体何事かと振り返ったが、直樹の美貌を見るや否や直樹の予想通り、美しい笑みを浮かべた。 「ええ、喜んで」 そして、直樹はセオリー通りに女性を誘っていく。 結局、直樹が派手なネオンが光るホテルを出たのは三時を過ぎてからだった。 すでに全員寝静まっていると思われる、自宅を目指す。 きっと、すき焼きなどもってのほかで友人の小言が待っているかもしれない。 直樹は少し冷えてきた風を突っ切りながら、速足で歩き続けた。 友人はいつものように直樹が帰ってきた瞬間、小言の雨を降らせるかもしれないがそれでも直樹は早く家に帰りたかった。 直樹がこのように朝帰りすることは珍しくない。 その度に友人は小言のような愚痴をつぶやき続けていた。 こういうとき、直樹の二人の友人のうち、会社勤めをしている男はあきれたように怒ってくる。 直樹のもう一人の友人、ニートかフリーターかよく分からない男はきっと無言のまま、軽蔑の視線を向けてくるに違いない。 それでも直樹はその二人が好きだ。 だからこそ、直樹はこの年になってまでこの二人と一緒に生活しているのだ。 別に男性趣味があるわけではない。 そうではなくて、この二人と住んでいるうちに結婚するのが面倒くさくなったからだ。 女は面倒くさい。 直樹が女と絡むようになって、導き出した結論だ。 だから、せめて家では女のいないところで暮らしたい。 ほかの二人も直樹と同じことを考えていると思われる。 直樹の家が見えてきた。 驚いたことにまだ、明かりがついている。 直樹はバッグから鍵を取り出すと、迷いもなく家のドアを開けた。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加