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──アリス...ねぇ、聞こえる?アリス...アリスってば...。
誰かが私を呼んでいる?でも、ごめんなさい。眠くて眠くて仕方がないの...。まだまだ、ずっと眠ってられるわ。「亜理子ってば!もう...時間がないのに...」そんなに慌ててどうしたの。瞼を持ち上げようとしても重くて重くて、友達の顔も周りの景色も見えない。抗えずにまた、段々と眠りの世界に吸い込まれていく...。
「やあ、アリス!やっとお目覚めかい?」目の前には、シルクハットを被った少年。彼の背に対して、その帽子は大きすぎるように見えた。辺りを見回すと、金の食器と豪勢なスイーツ。足下に広がる芝は水色で、銀の花が咲いている。子供らしくない彼は、お茶会の途中で寝るなんて、と溢しながら私のカップに紅茶を注いでくれた。どこか懐かしい香りのそれは、桃色の空に浮かぶ星達を映して煌めいている。「それで、アリス」紅茶を一口飲んだ少年が、問いかける。先程とは打って変わった、真剣な紅い瞳。「君はここで、ずっとお茶会をしていたい?」何故、そんな質問を。彼と上手く目を合わせられなくて、カップに口付ける。熱いっ!
思わず飛び起きたけれど、これはどういうことだろう。見慣れたはずの教室は、火の海に包まれて形を失いかけている。出口もすっかり塞がれていて、煙で咳が止まらない。私以外の人はもう、外へ逃げ出せたらしい。目が霞み始める。そうか。あの時、お茶会に参加せずに白兎を追いかけていたら。アリスは──。
机に伏せて、再び夢の世界へ。私だけの、眠りの国へと。帽子屋と二人で、終わらないお茶会をしよう。
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