タイムマシン

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 少年は一人静かにタイムマシンの中に入った。もう時は動き始めているというのに、彼の動きはそれを感じさせない。少年は扉を閉め、世界の誰よりも孤独となった。そして、最後の呼吸のために、空気を大きく吸った。空気があまりにも冷たすぎて、すべての細胞が凍り付くのを感じた。  少年はひとり、スイッチを押し、タイムマシンを起動させた。それと同時に、最後の世界が動き出した。  人々の体に、時間が流れ込んだ。それは手の指先から粘性をもって、ゆっくりと感じられるもので、少年が吸い込んだ空気と同様に冷たかった。そして、人々を侵していった。世界の数十億人がすべての感覚を共有し、考えることを放棄していた。  もう脳まで時が迫ってきているのが分かる。手足の指先から入ってきた「時」は、ついに頭の頂点にまで到達した。その重みに人々は耐えられず、皆、時が止まったのかのように動くことをやめた。  まず、視覚が消えた。次に聴覚、臭覚、味覚、そして、触覚を失った。だけれども人々は、自分がここにいることだけはかすかに感じることができた。ただし、それもどんどん小さくなる。人々は、なくなっているのだから、どんどん小さくなる。感じないことが正しい感覚なのだから。私はここにいないのだから。  思い出はとうの昔に消去された。思いはあったのかどうかもわからない。     
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