亡くなったDJに対する僕なりの追悼

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 エレベーターは、まっすぐに上階に向かう。ああ、似ている。ステージの上のあの高揚感に似ている。ただし、ステージの上では、上に向かっているのは私の魂だけ。魂だけが、まっすぐに上へ上へと上昇する。それは現実ではない、妄想の世界の現象だ。そう、あそこは現実世界ではない。ステージの上では、私は別の次元の訪問者だ。  部屋に入り、明かりをつけた。白い閃光が私を襲う。私の中に、ふっと、怒りがこみ上げる。私は即座に明かりを消し、まろやかな間接照明に切り替えた。 「ふう」  大きなソファに沈みこむように座り、私はこの日初めて一息ついた。しかし、一息ついてもあの残響は消えない。今日は眠れないだろう。もう一杯飲もうか。  私は部屋に常備されているスピリッツを手に取り、グラスにそれを注ぐ。もうだいぶ酔っ払っているのだが、水を多めに割ったから大丈夫だろう。グッとグラスを傾ける。 「今日は、いいライブだった」 私が出演すれば、どの国のどのライブでも観客は自動的に歓喜するのだが、私が納得できるようなライブは、一年に一回あるかないかだ。今日は、確実にその一回だと心から思う。ミュージシャンという仕事を選んでよかった。私は今、幸せの中にどっぷりと浸っている。     
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