まつり

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 花火が終わると、しんと静まりかえる。ほんとうに静かだ。ボクは、彼女のほうを見る。いない。ぼくが、キョロキョロすると、後ろから抱きつかれる。彼女の声と匂いがしたから、驚いたけどそのままにする。  堤防沿いを、むこうに見える明りにむかって歩く。海からの風は、湿気を帯びて肌にまとわりつく。ゴォーッという低い海のうなりが、耳の奥にひびいてくる。  彼女は、コンクリートをカラカラと鳴らしながらあるいている。どこかで、ロケット花火をあげている。ぼくは音のするほうをむいた。  夜店の通りをぬけ、アパートにむかった。ぼくの手には、ビールとアンダーギの残りがはいった袋。彼女の、ビニール袋には、焼き鳥のはいったプラスチックの箱がふたつ。階段を二度おり返して、黄色のドアの前つく。  歩いて体がほてり、額に汗がながれる。彼女は、窓際におかれた、扇風機の前に座って、スイッチをおす。羽がクルクルまわりだす。  彼女の匂いがながれてくる。ぼくは、ビールを袋からとりだしてあけた。  「きれいだったね。」 彼女は風で声をゆらしている。  「うん、きれいだった。」 窓の外からロケット花火の音がきこえる。  ぼくは、砂ずりをくちいれては、ビールを飲んだ。彼女は、一本食べたきり、それ以上食べようとしない。肉をあまり食べないんだ。そのかわり、野菜をよく食べる。野菜が好きなんだ。     
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