まつり

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まつり

「今日は花火の日だよ。」 熱帯夜のつづいている、夏の日に彼女がいうんだ。  八月十日、ボクの誕生日がくる前に白浜港の広場で祭がはじまる。花火は、八時すぎに打ち上げられる。ぼくは夏がくるたび に、その空を見あげていた。花火が終われば、ぼくの歳は一つふえる。  今日は、冷房のききが悪く、扇風機の前から彼女は動かない。その姿をみて、小さい頃を思いだす。ぼくは、冷蔵庫にはいっているスイカをとりだして、テーブルにのせる。彼女は、チラッとスイカに目をむけ、すぐにぼくの顔をみて、いかにもここに持ってきてというそぶりを見せる。ぼくが、知らないふりをしてスイカをたべていると、彼女は扇風機をもちあげて近づいてくる。片手でスイカをとると、美味しそうにほおばっる。シャリッという音をたてて赤い実のカケラが、彼女の口のなかに消える。ぼくをにらんで、「ケチ」っていうんだ。  夕暮れに涼しげな色をした浴衣に着がえた彼女がぼくの前をあるいている。夜店は、向こうまでつづいている。ザワザワと人の音がながれ、ぼくたちは熱い空気に包まれる。     
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