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不意に声をかけられた俺は声のした方向、事務室の入り口を向くと、そこには尚美が楓ちゃんを抱えて立っていた。
「そんなに驚かないでよ」
尚美は苦笑し俺を見つめる。作業の手を止め、あたりを見回すと、いつのまにか尚美を中心とする輪は解散していたらしい。
「売上はどう?」
「尚美が抜けてからも右肩あがりだよ」
今日の患者数は200人を超え、単価も悪くない。薬局の売上は尚美が抜けて一人少なくなったにも関わらず、常に上昇している。
尚美の抜けた分を補おうとスタッフ全員が普段以上の努力をした結果だ。
「私、この薬局に戻れなかったらどうしよう」
店舗にとって人件費がかからずに売上が出る事は良い事なのだが、このまま売上が伸びたままだと、尚美の言う通り、本部に産休後に戻ってくる必要がないと判断されるかもしれない。
「その時には俺も辞めるよ」
尚美が戻ってこないこの薬局に俺が勤める理由なんてない。
尚美と知り合ったのは大学一年の四月だった。
俺たちは野口大学の薬学部に入学し、最初の実験でペアになった。その時に意気投合し、お互いの友達を巻き込みながら一つのグループを作った。
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