不断桜

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不断桜

「好きです! 私と付き合ってください!」  桜舞い散る校庭で、モデルみたいな女子が手を突き出して頭を下げた。  その手には、ピンク色した可愛い封筒。 (……あんな美女でも、告白にはラブレターなんだ)  興味をそそられた私は読んでいた本を閉じて、垣根の隙間から男女の姿を確認しようと芝生の上で身をよじる。 (あんな子に告白されたら、男子なんてヒョイヒョイ付き合っちゃうんでしょ? ……そんな気持ち、いつか散るのに)  出た、私の悪いクセ。でも直らない。  散らない桜はない。  別れない男女はいない。  それが私の持論だから。 「ごめん。俺、好きな人がいるからさ。君とは付き合えない」 「だったら友達から!」 「悪い。そういうの苦手なんだ。遊ぶなら男だけの方が気楽だし……」  普段なら断られる女子を見て「ご愁傷様」なんて悪態を内心吐いて、ちっぽけな自尊心を満たす私。  でも、苦笑いで断る男子の横顔を見て、私の胸はギュッと締め付けられた。 (凜、くん……)  クラスの中で唯一話し掛けてくれる男の子。  とてもカッコ良くて、スポーツも出来て、勉強も出来る。  けどなぜか部活は帰宅部で、独りを好む。  そんな所も少し影があるからという理由で、女子からは大人気。  どこぞのアイドルみたいな横顔を見ていると、私の胸もドキドキが止まらない。 (ってダメでしょ私。こんな陰キャじゃ好きになっても彼女と同じ運命よ。名前呼び許されてるからって、調子に乗らないの)  恋は叶わない。  愛は永遠に続かない。  それが私の持論なのだ。  だってそれは、両親が証明してるもの。 (……私に『愛』なんて名前を付けたクセに)  散っていく桜の木の下で、私はメガネ越しに、ヒラヒラと舞う桜の花びらを眺めていた。
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