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身をよじって身体を激しく泉の中に鎮める凛子の身体から、黒龍が躍り出たのは、その直後だった。
二匹の龍が絡み合い、激しい闘いを繰り広げる泉の上に、冷たい月光が降りそそぐ。
キラッと激しい稲妻のような光が奔り、黒龍が咆哮した。
そのまま天空の彼方を目指し、黒龍が満月に向かって上ってゆく。
どこまでも・・どこまでも・・・そして月に溶け逝って・・
満月に溶けて消えた。
蒼い龍は泉にたたずむ凛子の許に降りると、蜷局を巻くように凛子を包んで輝いた。
そしてまた静かに背中に戻ると、眠りについたのだった。
凛子の身体がゆらっと揺れて泉の中に消える。
恒星は静かに泉の中に入って、セイラを抱きとめた。其処に居たのは、凛子の役目を終えたセイラだった。
「セイラ、終わったよ」
凛子を腕の中に包むように抱き上げ、泉の中から出て来る恒星の姿に翔は言葉を失くした。
「俺の負けだ」、胸の内に痛みが走る。
次に起こった出来事は、誰も予測もして居なかった凶行だった。
銃で武装した一団が、祭壇を踏みつぶして乱入した。
凛子を抱いたままの恒星と沙織お祖母ちゃん、そして直衣を身に着けた神官姿の父と兄も銃で脅し、五人を隅に引き立てて縛り上げた。
翔を立たせると、両手と両足を縛った。
一団の中から男が一人歩み出て来ると、その翔の目の前に立って、楽し気な笑みを浮かべた。
「やぁ、竜崎翔。初めてお目にかかる」
「私が李周人だ。冥途の土産に覚えておきたまえ」
翔の胸に向けて、拳銃をゆっくり構える。
引き金に指を掛けると、翔に目を向けたままで低く囁く。
「心配はいらない。そこの神主さんは、森の売買契約書にサインするまでは生かしておいてやる。後の皆さんは、竜崎翔のお供をして貰おうかな」
引き金にかかった指が動こうとしている。
竜崎翔が銃口を見つめて、息を呑む。
目を天空の月に向けた。
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