第三話  龍の乙女

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 軽い銃の発砲音。  爆発するような衝撃が訪れる筈だった。  だが吹き飛んだのは、翔の胸でも頭でも無かった。  目の前でゆっくりと頽れて行く李周人の身体。  慌てふためいて李周人に走り寄る部下たちだが、闇の中からする発砲音とともにまた一人倒れて足下に転がった。  「誰だ」  激しい誰何する声が、黒い森に響き渡る。  「此奴を殺されたく無ければ、出てこい」  追い詰められた男が一人、翔のこめかみに銃口を押し当てると、闇に向かって叫んだ。  「ふっふっふ」、乾いた女の声が聞こえたと同時に、投げられたナイフが男の銃を持つ手に刺さり、呻いて銃を取り落したその胸に更に赤いバラが咲く。残っていた男たちが、一目散に森の中に走り込んで消えた。  後には、背の高い魅力的は笑みをたたえた男が、一人だけ残った。  裸で縛られているセイラの口から、信じられ無い思いが滲む声が漏れた。  「ロビンフット、如何してアンタがここにいるの」  男は薄く笑った。  「僕が本物の李周人だからだよ、セイラ」  倒れている男を足で蹴ると、闇に向かって呼び掛けた。  「出てきたまえ、お前だと解ってるんだ。竜崎マリヤ」  「お前が抱かれた男は、僕の弟だよ。名前は健人。僕たちは双子だが二卵性でね、似てないだろう」  「つまりこいつは、僕の影武者を子供の頃からずっと演じてきたのさ。香港マフィアのボスは命を狙われやすい。頭脳が亡くなっちまったら、お終いだからね」  暗闇の中から銃を手にした女が一人、月光の中に歩み出て来る。  「まさか、あれが影武者だったなんてね。まんまと騙されたわ」  「でも翔には手を出させない。アンタなんか、消えてよ」、引き金に指が掛かる。  マリヤが発砲する前に、ロビンフット、(いや周人と呼ぶべきだろう)の銃がマリヤの胸を撃ち抜いていた。  ゆっくりと倒れて、大地を血に染めるマリヤの身体。
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