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軽い銃の発砲音。
爆発するような衝撃が訪れる筈だった。
だが吹き飛んだのは、翔の胸でも頭でも無かった。
目の前でゆっくりと頽れて行く李周人の身体。
慌てふためいて李周人に走り寄る部下たちだが、闇の中からする発砲音とともにまた一人倒れて足下に転がった。
「誰だ」
激しい誰何する声が、黒い森に響き渡る。
「此奴を殺されたく無ければ、出てこい」
追い詰められた男が一人、翔のこめかみに銃口を押し当てると、闇に向かって叫んだ。
「ふっふっふ」、乾いた女の声が聞こえたと同時に、投げられたナイフが男の銃を持つ手に刺さり、呻いて銃を取り落したその胸に更に赤いバラが咲く。残っていた男たちが、一目散に森の中に走り込んで消えた。
後には、背の高い魅力的は笑みをたたえた男が、一人だけ残った。
裸で縛られているセイラの口から、信じられ無い思いが滲む声が漏れた。
「ロビンフット、如何してアンタがここにいるの」
男は薄く笑った。
「僕が本物の李周人だからだよ、セイラ」
倒れている男を足で蹴ると、闇に向かって呼び掛けた。
「出てきたまえ、お前だと解ってるんだ。竜崎マリヤ」
「お前が抱かれた男は、僕の弟だよ。名前は健人。僕たちは双子だが二卵性でね、似てないだろう」
「つまりこいつは、僕の影武者を子供の頃からずっと演じてきたのさ。香港マフィアのボスは命を狙われやすい。頭脳が亡くなっちまったら、お終いだからね」
暗闇の中から銃を手にした女が一人、月光の中に歩み出て来る。
「まさか、あれが影武者だったなんてね。まんまと騙されたわ」
「でも翔には手を出させない。アンタなんか、消えてよ」、引き金に指が掛かる。
マリヤが発砲する前に、ロビンフット、(いや周人と呼ぶべきだろう)の銃がマリヤの胸を撃ち抜いていた。
ゆっくりと倒れて、大地を血に染めるマリヤの身体。
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