第三話  龍の乙女

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 「マリヤ・・」  翔の口から、マリヤを呼ぶ掠れた声が漏れた。  「さて、弟が言ったとおりに遣るとしようか。先ずは君だ、セイラ」  翔に目を据えたままで、セイラに話し掛けた。  「僕は最初から、生意気な君が大嫌いでねぇ。それに知ってたかな、僕は祖父にそっくりなんだよ、君の大叔母さんの許婚だった柳原大尉にね」  笑いながら、翔に激しいフックを見舞う。  呻いて蹲った翔の腹部を、今度は思い切り数回蹴った。  気を失って動かなくなった翔を更に蹴ろうとした周人の身体が、銃の発砲音と共に後ろに吹き飛んだ。見事に頭をフッ飛ばされた男の死体がころがる。  五人が驚いて見詰めた先に、胸を血で染め乍らゆらっと立ち上がった、マリヤの姿が映った。手に銃を構えたままのマリヤ。  「翔・は…・殺させ・ない・…」  其のまま、またゆっくりと頽れて、そして動かなくなった。  銃声に驚いて、社務所から飛び出して来た凛子の母とパパゲーノとボスが、暗い森の道を月明りを頼りに走って来る。  ボスとパパゲーノは、神事が終わるまで待つ様に言われて、社務所でお茶の接待を受けていたのだ。  泉の周りの惨劇に悲鳴を上げる凛子の母。  慌てて五人の縄を解き、気を失っている竜崎翔に歩み寄ると、怪我の具合を確かめるボス。  死体を確かめて、地元の警察署に連絡を入れるパパゲーノ。  慌ただしい中で、恒星は急いで上着を脱いでセイラの身体を包んだ。  茫然と、泉の周りを見つめているセイラの身体を強く抱き締める。立ち上がって、セイラをその腕に抱きあげた。  「セイラ、着替えよう」  優しく呟いて、社務所に向かって歩き出した。  後から、沙織お祖母ちゃんを支えて凛子の母が付いていく。  ただ月明かりが照らす道を、ゆっくりと歩いて行った。
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