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2・
翌日の午後、やっと現場検証を終えた警察官が立ち去った。
その後の父と兄の悲嘆にくれた姿は、哀れを誘うに十分だった。
龍神の泉は勿論のこと、竜神の森の浄化と結界の張り直しは大変な作業である。神社の中は大騒ぎだった。
そんな中で、歩み寄って来た恒星が話があると言う。
竜神の森の奥の院で、ワタシと恒星は向き合った。
「セイラ、お願いだからもう仕事を辞めてくれ。君があんな危険の中にいつも身を置いていると思うだけで、心配で気が狂いそうになる。耐えられないんだよ」
恒星が、辛そうに言葉を絞り出した。
見詰める恒星の眼が、ワタシを縛る様で怖い。解っているのだ。
何時までも、こんな生活を続けられはしない。これは一時の夢、いつかは終わりになるお祭りに似ているのだと。
「もうすこしだけ待って。お願い・・」
背を向けて立ち上がったワタシを、後ろから包んで抱きしめた恒星の、身体から薫る芝草のコロンの匂い。
振り切れない想いが、ワタシの身体を締め付ける。
「もう僕を愛してはいないのか。僕の為では、ダメなのか」
寂しそうに呟いた。
キツク抱く竦めると、無理やり熱く唇を奪った恒星。逆らう勇気が、薄れて消えそうだった。
「僕は・・諦める・」
絞り出すような恒星の声。
「君を縛ることは、滔々できなかった。こんなに欲しいと思った女は、君が初めてだった」
腕を解いて、後ろに下がるとそのまま奥の院を出てゆく気配がする。
恒星が遠ざかっていくのが、解る。
「あの夢と同じだ」
苦しくて、息が止まりそうだ。
不意に人の気配がした。
横に並んで立っているジュリエット。
(夢じゃない!本物の幽霊の出現に、流石に悲鳴をあげた)
{何やってるのよ。サッサと追い駆かけなきゃ駄目じゃないのよッ}
バシッと、どこかで家の柱が鳴った。
凄まじいラップ音だ。
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