第一話  蘇州夜曲

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 第一章  蘇州の夜に抱かれて眠る  1・  私のコードネームは、【セイラ】。  警視庁組織犯罪対策第五課(通称・組対五課)の特殊対策班に所属する刑事(デカ)である。(吾輩は猫である・・とは違い、コードネームとは言え、チャンと名前がある)  組対五課の捜査員は、“潜ってなんぼ”の商売と言われている。当然ながら本名は極秘事項に該当する。  面が割れては、極めて拙い。  銃器と薬物を取り締まる仕事がら、組対四課(暴力団対策が専門)とは絡みも多い。  当然、マトリとも絡む。都合によっては公安とも絡む、厄介な職場である。  最初に、此処は断っておくべきだろう。  別に深い事情なんてものを抱えて、組対の刑事になったのではない。  言うなれば、「この仕事が好き!」。  「天職だ」とまでは言わないが、向いているとは思っている。  そんな訳で、ただいま潜入中。  中国系カナダ人の(げん)恒星(こうせい)氏が、最高責任者として権を握る厳グループ。  その東京オフィスの秘書室で、数多くいる秘書の一人に採用されて半年。秘書とは名ばかりの、呈の良いメイドを勤めている。  この多国籍企業のオーナーは、まだ四十代に突入したばかりだが、遣り手の実業家としても名高く、色恋の道でも有名人。見ていて面白い男だが、喰えない野郎だ。  然も独身。(結婚歴も離婚歴も無い)  もしかしたらだが、男色家かも!  厳家は、もとは絹織物の取引で上海(シャンハイ)租界(ソカイ)にその名を知られた富商だった。それが太平洋戦争が開戦になる直前にカナダに亡命、カナダ華僑になった経歴を持つ。  終戦で落ちぶれた富商も多いかな、なかなかに遣る。恒星氏の父の代に、多国籍企業に成り上がった。いわゆるコングロマリットと言うやつだ。  今や、アメリカ合衆国やヨーロッパの各国にも、数多くの事業を展開している。  その厳恒星氏の周りに、最近になって中国マフィアの影が見え隠れしている。今回の潜入は、{厳グループは、今までクリーンな企業だと思われていたが、監視が必要だ}、と上層部が判断した結果だった。  もっとも恒星氏は、日本にばかり居るわけじゃない。  となれば、「身内の誰かが中国マフィアと関係を結んだ」、と見るのが妥当だろう。  その身内が誰なのか、目的は何なのかを速やかに炙り出すのが、今回の私のお仕事だ。
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