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「待って!パパゲーノ。何も誘拐なんかしなくたって、麗佳が自分から身体を差し出す様に仕向ければいいのよ」
「麗佳をパーティーに招いて、カードテーブルに誘う。日本人には馴染みのないこの習慣も、欧米では歴史のある当たり前の悪戯だわ。そこで多額の借金を作らせるのよ」
パパが渋い顔で水を差した。
「藪から棒に何だよぉ」
「優雅なカードテーブルの悪戯に、相手にはブタクサ野郎の島崎。無理だ、上品なアイツなんか想像できん」
「違うわよ。中国マフィアのボス、李周人よ。整った怜悧な顔立ちの美男子だって言う噂じゃないの」
そうなのだ。李周人の顔を知っている者は数少ない。
中国マフィアの幹部のほんの一部と、彼の親衛隊と呼ばれる数人しか、その実態を知らない謎の男だ。
噂ではまだ三十代半ばで、長身で細身の怜悧な印象の美男子だと言う。
切れ者で、経済にも精通している。
中国マフィアの最近の台頭ぶりを見ても、その手腕が分かる。
普段はいわゆる上流階級の中に紛れ込んで暮らしている、と言う噂の男だ。何でも、イギリス貴族の血を引いているとか。
「その李周人がね、麗佳をパーティーに招待するわけよ。どっかの離れ小島の別荘に、選び抜いた金持ちを呼んでパーティーを開くって言うシチュエーションのイギリス映画をこの間、テレビで見たわ」
「テレビかよぉ」、呆れ顔だが興味を持った顔をした。
「恒星が麗佳に、スイスのサナトリウムに行けって言ったのよ。これって、賭博依存症の治療じゃ無いかなぁ」
それに、「麗佳はカードで負けても、ベッドを共にするのが李周人だと思っていた」、とすればこの話は辻褄が合う。
「でもよぉ。超セレブのお家では、招待されれば亭主を放かり出して、そのパティーってのに一人で出かけて行くのかぁ?」
「変だろうがよぉ」
其処だと思った。
恒星の奴も、きっと同じ疑問を持った筈だと思い至った。あの時、谷崎隼人の方を、妙な顔をして見ていた。
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